その店の大きな窓からは、時計塔と聖堂が良く見えた。
誕生日を迎えたベルと友人たち、そして主催者であるウィルは早めの夕食を楽しんでいた。
「――そうだ、ベル」
食後のデザートを食べ終えた頃、ウィルが鞄から包みを取り出した。
ベルにそれを渡しながら彼は言った。
「これ、俺からのプレゼント」
「ありがとう!……開けてみてもいい?」
「ああ」
みんなが注目する中で、ベルは丁寧に包みを開けていく。
「これ、欲しかった民話集だ!嬉しい……!」
「喜んでもらえてよかったよ。それと、これも一緒に」
ウィルは、先ほどよりも小さく、少し古びた包みをベルに渡した。
「これは、父さんから」
「父さん?」
「ベルの父親って、確か1年前に……」
ハキーカが呟いた。アリシアたちもはっとする。
ベルとウィルの“父親”は、病によってこの世を去っている。
「父さんに頼まれていたんだ。『ベルが15歳になったら渡してくれ』って」
「そうだったんだ……」
慎重に包みを開いていくと、1通の手紙とペンダントが現れた。
ペンダントは金色の額縁にガラスをはめ込んだような形をしていて、ガラスの内側では大小様々な歯車が静かに回っている。
ベルは手紙に目を通した。
親愛なるわが子 ベルへ
できることなら、自分の手で渡したかったが、この手紙を読んでいるということは、それは叶わなかったということだ。
15歳の誕生日おめでとう。
怪我や病気はしていないだろうか。
ウィルやクロ君とは仲良く過ごせているだろうか。
新しい友人ができたとも話してくれたね。
これからもどうか健やかに過ごせるよう願っている。
愛をこめて
「父さん……」
短い手紙だったが、ベルにとってはそれで十分だった。
2枚目の便箋に気づいたベルは、泣きそうになるのを堪えて読んだ。
同封したペンダントについてだが、君と出会ったときに、君が既に持っていたものだ。
クロ君と相談して、今まで勝手ながら預かっていた。
その点は、この場で詫びたい。
今後ペンダントについて何かがあったときは、クロ君に伝えてほしい。
ベルはペンダントに目をやった。
「どんな仕組みで動いているんだ?」
ペンダントを見るために、真向かいに座っていたモントが身を乗り出そうとしたが、ルナに止められた。
「兄さん、行儀悪いよ……服も汚れちゃう」
「でも、ルナだって気になるだろ」
「それは、そうだけど」
「――はい、どうぞ」
うずうずしているモントを見かねて、ベルはモントが見やすいようにペンダントを近くに置いた。
手紙はウィルからもらった本の間に挟んで、鞄の中にしまっておく。
おそるおそるといった様子で、モントはペンダントを持ち上げた。
「水が入ってるとかじゃないんだな」
いつの間にか、ハキーカやアリシアもペンダントに注目していた。
「僅かではあるが、魔力を感じる。でも、どんな使われ方をしているんだろう」
「歯車の動力じゃないか?よく分かんないけど」
モントは、ペンダントをベルに返した。
「……あれ?」
ベルは異変に気づいた。
「どうした?まさか傷つけてしまったとか!?」
「ううん、それは大丈夫」
最初は、見間違いかと思った。
しかし、両手で暗がりを作りながらペンダントを見て確信した。
「……ペンダントが、光ってる」
ベルが言う間も青白い光は輝きを増していき、そのうち店内の照明の下でもはっきりと分かるほどまでになった。
「綺麗……」
魅了されたような表情でルナが呟いた。
一方で、ウィルは疑わしいという表情をする。
「だけど、どうしていきなり光りはじめたんだ?歯車の仕掛けもだが、なんか怪しくないか?」
「父さんの手紙では、ペンダントに何かあったらクロさんに話して、ってことだったけど……」
「クロっていうのは?」
ハキーカの問いに、ベルが答える。
「父さんの知り合いで、僕や兄さんにとってはもう一人の兄弟のような人なんだ。
ほら、この前誘いたい人がいるって言ったでしょ?用事があるからって断られたけど……」
「ああ、その人か」
「――光が」
アリシアの声に、全員がペンダントを見た。
いつの間にか光が弱くなっていた。残っていた輝きも、30秒もしないうちに痕跡すら残さずに消えてしまった。
「……一体、何だったんだろう」
ペンダントを首に下げながら、ベルが言った。
「これについては、後でクロさんにに聞くしかない」
さあ仕切り直しだ――その言葉をウィルは最後まで言えなかった。
テーブルの前に、見知らぬ青年が立っているのを目にしたからだ。
湧いて現れたかと思うほどの突然の青年の登場に、ベルたちは驚いた。
「歓談中失礼。この中にウィルとベルの兄弟がいるな?」
疑問ではなく、確認のための問いだった。
6人は顔を見合わせた。
「知り合い?」
ハキーカの問いに、ウィルをはじめ全員が否定の反応をした。
その様子を見て、青年が言った。
「初対面だからな、知らなくて当然だ」
むっとした様子で、モントが尋ねる。
「あんたは誰だよ」
「俺はカロン。クロの件で、2人に用がある」
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